「這えば立て 立てば歩めの親心 我が身に積もる老いを忘れて」
子供が這うようになると、早くつかまり立ちができないかと思い、立つようになれば、今度は早く歩けるようにならないかと願う我が子の成長を待ちわびる親の気持ちをいった言葉です。
親が子を思い、子が親を思う気持ちは自然であるべきものです。その自然な気持ちが今の世の中では自然の形としてとらえられていないのではないでしょうか。個人の身勝手な感情・欲望のために、親が子を、子が親を傷つけるといった話をよく耳にするようになりました。
以前まではテレビ等の中でしか聞くことのなかったような事件が、今では身の回りで起こってもおかしくない世の中になったと思います。

皆様おはようございます。12月に入りめっきり冷え込んでまいりました。12月といえば“師走”とも申します。“師”という漢字は、部首の部分が“軍隊”、作りの部分が“小さな丘”という意味で、軍隊が駐屯するこだかい丘を表し、ひいては「軍隊」さらに「集団をひきいる人」という意味があるそうです。
諸説ありますが、お師匠さん・先生・お坊さん、そういった方々が走り回らなければならないほど忙しい時期ということなのでしょう。特にお坊さんは、座って朗々とお経を読んでいるイメージがありますので、なおさらかもしれません。皆様も年末・年始の準備等で忙しくされていることと思います。そんな忙しい早朝よりこの仏教アワーをお聞き下さりありがとうございます。今朝は真庭市久世、日蓮宗興善寺住職朝崎暢彦がお話をさせて頂きます。

さて先日、ご近所のおばあちゃんが、自坊の山門前を歩いておられました。すると、山門から見える本堂に向かって手を合わせ、深々とおじぎをし、「今日も一日守って頂きありがとうございました。明日も宜しくお願い致します。」と、仰っておられました。いつからされていたのでしょうか?恥ずかしい話、近所に住んでいながら全く知りませんでした。
我々は、日頃一人で生きているわけではありません。様々なものの恩恵を受けて生きています。それは家族や他人、またはご先祖様であったり、仏様であったりするわけです。また食事も我々が生きていく為の必要なもののひとつであります。その食事においては、様々な命をいただいています。皆様も、食事の前には「いただきます」、食事の後には「ごちそうさまでした」と言われるはずです。そういった恩恵を受けているあらゆるものに感謝をしなければいけないと思いませんか?私は、本堂に手を合わせるおばあちゃんの自然な姿に驚くと共に、非常に心温まる想いが致しました。
冒頭で親子の話をさせて頂きましたように、「生まれてきてくれてありがとう」ではなく、親が子供を傷つける、いわゆる児童虐待は年々増え続けているのが現状です。なお、児童相談所における相談件数でいえば6万件を超える勢いで、この20年間で約50倍になっているそうです。
その虐待をした加害者は「躾のためにやった」と供述をし、躾がエスカレートするケースが多いと考えられているようです。躾がエスカレートする、それはもはや暴力です。“身”に“美”と書いた“躾”に対し、“暴”れた“力”と書いた“暴力”。躾と暴力は違います。本来、本当に子供の事、未来を思い、また子ども自身の内面を美しくするための躾であるべきではないでしょうか。
子供は親を選べない、親も子供は選べない、と言われる方もおられます。しかし、1人の人間が誕生する確率は天文学的数字だそうで、もはや奇跡といっても過言ではないかもしれません。そういった意味からすれば、選べないのではなく、子供はその親の元に選ばれて来ていると、私は思います。
その選ばれた奇跡の子供を、また自分を産み育ててくれる親をどうして傷つけることができるのでしょう。何故そこに感謝の心がないのでしょう?
私自身、2児の父親であります。1人目の時は出産に立ち会うことができ、その誕生の瞬間は、年甲斐もなく涙し、感謝したことは未だに忘れることは出来ません。

「懈怠なりし者は汝是れなり」
これは、お釈迦様が晩年お説きに成られました「妙法蓮華経」、この第一章目「序品第一」の中で説かれている言葉です。
“怠け者はあなたのことですよ、自分を振り返って見てみなさい”という戒めです。
我々は、悪い自分を見なければならないのです。自分を見れば見るほど醜い汚い自分が見えてくるはずです。「私は今まで悪いことを一切したことがありません」と言える方は決していないと思います。過去を振り返り反省することによって、自分自身を成長させることになるはずです。先程の躾も同様、躾する側は時折自分自身を振り返り、感謝の心を忘れないようにしたいものです。

それでは、本日もお健やかにご生活出来ますようお祈り申し上げまして、私のつたない話を終わりとさせて頂きます。御聴聞ありがとうございました。
本日は、真庭市久世、日蓮宗興善寺住職朝崎暢彦がお話させて頂きました。
南無妙法蓮華経