おはようございます。本日は、岡山市三門、妙林寺、長崎一隆がお話をさせて頂きます。 
 いよいよ十二月、今年も残すところあとわずかとなりました。この十二月は、「師走」ともいいます。「師走」とは、普段はドーンと構えているお師匠さんも年の瀬で何かと忙しくなるということ、もう一つは「師」とつくところからこの時期にはお坊さんにお経を上げて頂く機会が多い、つまりお坊さんも出歩く機会が多くなる、というところからも来ているそうです。皆さんも町でお坊さんが走っていく姿を見ることが多いでしょう。と言ったら、冗談になりますが。
 さて、年の瀬を迎えるに当たって、皆さんはいろんなことをお考えになるのではないでしょうか?あれもしなければ、これもしなければと思い、結局は何もしない内に一年が過ぎてしまったような気がします。
 以前、私が岡山少年院を訪れたときに、廊下の壁にある言葉が書いてありました。帰ってから早速調べてみると、「菜根譚」という中国の古い教えの一部であることがわかりました。中国の道教、儒教、仏教の教えを合わせたもので、菜の花「菜」という字と、根っこの「根」と書いて「菜根」といいます。この意味は中国の汪信民という人のことばに「人ヨク菜根ヲ咬ミエバ、則チ百事ナスベシ」とあるのに基づいているそうです。つまり、「菜根」とは、粗末な食事のことで、そういう苦しい境遇に耐えた者だけが大事を成し遂げることが出来るという意味です。その「菜根譚」に、「天地ニ万古アルモ、コノ身再ビ得ズ。人生タダ百年、コノ日最モ過ギ易シ。幸イソノ間ニ生マルル者ハ、有生ノ楽シミヲ知ラザルベカラズ、マタ虚生の憂イヲ懐カザルベカラズ」というもので、意味は、天地は永遠であるが、人生は二度と戻らない。人の寿命はせいぜい百年、あっという間に過ぎ去ってしまう。幸いこの世に生まれたからには、楽しく生きたいと願うばかりではなく、無駄に過ごすことへの恐れを持たなければならない。ということです。少年院に書いてあったものなので、恐らく、悪いことをして、ここで時間を過ごすことより、二度と戻らない一度きりの短い人生、こんな所に入らなくてもいいように、一日一日を大切に、若々しく充実した人生を送りなさいよ。と教えているのだと思いました。若いときには、まだまだたくさん時間があると思って、無茶をしたり、何も考えずに無駄に行動することがありますが、年を取るにつれて、また、病気になると はじめて一日を大切に、さらには自分の人生を真剣に考えるようになります。
 世界三大テノール歌手と言われたホセ・カレーラスさんは一九四六年スペイン・バルセロナに生まれ、七十二年にはニューヨークで「蝶々夫人」のピンカートン役で歌って国際的地位を高め、三十歳でドミンゴ、パバロッティとともに世界三大テノール歌手と呼ばれるようになりました。八十七年七月、パリで映画「ラ・ボエーム」の撮影中、血液のガンと言われる白血病に冒されていることがわかったのです。彼は「白血病で百万人にもし一人でも助かるチャンスがあるとすれば、そのただ一人は自分であるに違いない」との強い意志と勇気を持って、故郷バルセロナでの闘病生活を始めたのです。十月下旬には、アメリカ・シアトルで骨髄移植の手術を受け、化学療法や放射線療法で髪の毛が抜け、治療の苦しさのため、容貌も醜く変わってしまいました。しかし、世界各地から大勢のファンの励ましを受け、一年後の七月、故郷スペイン・バルセロナ野外劇場で十五万人もの聴衆を集めて復帰リサイタルを開いたのです。野外劇場が割れんばかりの嵐のような拍手の中、これまで受けてきた治療のせいか、穏やかに丸みを得た彼の顔から病に挑戦して勝利したすがすがしい姿と笑顔がこぼれていました。彼は、「病気をしてから、家族と友人と過ごす時間を大切にするようになった」と言っていました。その後、白血病の研究や同じ苦しみに耐えている人たちの援助の為に自ら白血病基金を設立ししました。そして去年十二月にはカンボジア・アンコールワットでコンサートを開き、さらに今年十月には来日をし、愛知県でクラシックリサイタルを開き現在も元気に活躍をしています。彼は、勇気を持って最後まであきらめないで生きること、限られた人生という時間の中で、歌うことへの執念が白血病という病を克服し、「人間が生きる」ことの意味を教えてくれているように思いました。
 「法華経」というお経はお釈迦様晩年の教えであります。「生老病死」つまり「いきること」「老いていくこと」さらには「病気になること」「死んでいくこと」という私たちに降りかかり、避けては通れない四つの苦しみを受け入れ、その中で生きることの尊さを教えて励まされているのが、この「法華経」というお経であります。日蓮聖人のお言葉の中に「一日の命は、千万の宝にも過ぎたり」と教えておられます。これは一日を生かされたことはどんな宝よりも大切で、ありがたいことなんだよ、ということであります。残すところ、あとわずかになりました。今年一年を反省して、今日一日の命の大切さを考え、今日はいい日だったなと思えるようになってほしいと思います。寒く空気が乾燥しやすい時です。風邪に気をつけて、どうぞお元気で今日一日をお過ごし下さい。本日は岡山市三門、妙林寺、長崎一隆がお話をさせて頂きました。ありがとうございました。